1.技術の名前から、残したいものの名前へ
久しぶりに、NACKのこれからについて書きます。
NACKは、NFTによるアートのコレクションを出発点にしていました。京都にゆかりのある作品をデジタル化し、所有や展示の新しい形をつくる。そこには今も可能性を感じています。
ただ、活動を続けるうちに、もう一度考えたくなりました。
僕は、NFTを使って何がしたかったのか。
技術の説明に力を入れるほど、その先にある目的が伝わりにくくなっていたのかもしれない。そこで、NACKという名前に込める意味を捉え直しました。
New Archive of Contemporary (Art and Culture) Kyoto。
京都にゆかりのあるアートやカルチャーを、次の世代へ残していく。そのために、調べ、記録し、編集し、人に届く形にする。これからのNACKは、その役割を担う編集メディアとして進んでいきます。
NFTも、3Dも、映像も、その目的に合うときに選ぶ手段です。まず残したいものがあり、出会ってほしい人がいる。そこから方法を考えたいと思っています。
2.アーカイブは、次の出会いをつくること
残したいものは、すでに評価が定まった作品だけではありません。
京都に現存する建築や寺社仏閣。そこで積み重なってきた営み。そして、今この街で活動しているアーティストや、これから知られていく新しい才能。その姿や声、何を考えてつくっているのかまで、メディアとして記録していきたい。
有名な建物でも、名前は知っているけれど、その面白さにはまだ触れていない人がいる。一方で、まだ知られていない表現にも、未来へ手渡したい価値があるはずです。
写真で形を残す。文章で背景を伝える。映像で声や動きを残す。3Dで、別の場所からも姿に触れられるようにする。それぞれに、得意な伝え方があります。
僕にとってアーカイブは、保存したら終わりではありません。
残したものが、誰かの「好き」の始まりになること。
記事を読んで実物を見に行く。映像をきっかけに作家を知る。空間で作品に出会い、暮らしに迎えたくなる。そんな次の行動まで生まれるものにしたい。
そのためには、知識のある人だけが入れる場所にしないことも大切です。面白そう、きれい、なんだこれ。その小さな反応から入れる入口を、いくつもつくっていきます。
3.大学時代に考えた名前を、もう一度
その入口を、バーチャルな世界にもつくれないか。
そこで始めたのが、Y4TR(ヤッター)というプロジェクトです。
この名前は、最近思いついたものではありません。大学生の頃、本名でアーティスト活動を始めるのが少し怖くて、別の名前を探していた時期がありました。
そのとき、サンスクリット語を調べるなかで出会い、僕が「探求者」という意味を重ねた言葉が、名前のきっかけになったと記憶しています。田村祐大、Yudai Tamura。その綴りや響きにも近いものを感じて、妙に親しみが湧いた。
結局、その後は本名名義でDJや音楽の活動をすることになりました。自分の楽曲が欧州のレコードショップのテクノチャートで1位になり、Nintendo SwitchやPlayStation 5向けのゲームに関わる楽曲のマスタリングや、主題歌の作曲も経験しました。
田中フミヤさんが、ZIPとのB2Bで僕の曲をスピンしてくれたこともあります。多くの人がいるフロアで、自分のつくった曲をかけてもらえた。あのとき本当に嬉しかったことを、今でも覚えています。
今、NACK notesで自分の音楽史を少しずつ振り返っています。第一弾を書きながら、昔の自分が何を面白がり、どこへ向かおうとしていたのかを、改めて考えています。
Y4TRは、その途中で再び手に取った名前です。
当時は本名で活動する怖さから考えた名前が、今は、やりたいことを自由にやるための名前になっている。それも、なんだか面白いなと思います。
4.DJのように、体験をつなぐ
では、なぜゲームなのか。
僕はDJなので、新しい曲も昔の曲も調べます。この場面には何が合うか。次にどんな音が来たら気持ちいいか。曲を選び、その場でつなぎ、フロアの反応を受け取る。
同じ曲でも、何のあとに流れるかで聴こえ方は変わります。選び方と順番によって、一つの時間ができていく。
それを、音楽以外でもやってみたいと思いました。
僕の世代には、通ってきたゲームがたくさんあります。ポケットモンスター、ロックマン、マリオ、ゴールデンアイ、スマッシュブラザーズ、電車でGO!、サクラ大戦。ゲームボーイ、スーパーファミコン、ニンテンドウ64、セガサターン、プレイステーション。
冒険する楽しさも、友達と遊ぶ時間も、運転する緊張感も、物語の登場人物に気持ちを重ねた経験もある。
それぞれのゲームが、僕の中に違う感覚を残してくれました。その記憶を、自分の音楽や映像、今まで見てきた世界とつなぎ直してみたい。
曲を選んで一夜をつくるように、体験を選んで一つの旅をつくる。
今考えているゲームは、そんな発想から始まっています。
5.僕の助手席に、座ってもらうように
ここで、企画の中身を少しだけ書いてみます。
Y4TRは、音楽、映像、短いゲーム体験をつないで巡る、オムニバス形式の作品として考えています。時代も場所も変わる。場面によって、遊び方も変わる。その旅の中で、人や音楽、知らなかった価値観に出会っていく。
たとえば、自然の中を歩く。昔の街で働く。乗り物を動かす。夜になったらクラブで音楽に触れる。もし平安や江戸にDJ機材があったら、そこにいる人はどんな反応をするのか。そんな、単純に僕が見てみたい場面もあります。
にぎやかな体験の間には、神社のような場所で立ち止まり、自分が何を受け取ったのかを振り返る時間を置きたい。出会った音楽や選んだものが、旅の終わりに一つのミックスへつながっていく。そんな構成を検討しています。
僕が通ってきたのは、音楽とゲームだけではありません。
現代アート、デザイン、ファッション、民藝、食器。浮世絵や油絵、美術館、カフェ、ナイトクラブ、鴨川。京都で暮らすなかで触れてきたものも、仕事で考えてきたビジネスや経営も、僕の見方をつくっています。
それらを全部、説明文にして渡す必要はないと思っています。歩いたときの景色や、そこで鳴っている音、何気なく手に取れるものに、僕の選び方が表れていればいい。
僕が運転席にいて、皆さんが助手席に座っているような感じです。
「この景色、ちょっと見てほしい」
「ここで、この曲をかけたい」
そうやって案内された先で、僕とは違うものを好きになってもらってもいい。僕の価値観を通って、その人自身の発見にたどり着ける体験にしたいと思っています。
6.つくったことがないから、また学ぶ
ずっと音楽をやっていたのに、クラブで最初に関わったのは映像でした。大学時代の友人とのつながりが、その入口でした。
音楽をやりたくて、映像にも触れた。必要になったことや面白そうなことをやっているうちに、できることが増えていった。僕の制作は、だいたいそんな進み方をしています。
ゲームづくりについては、まだ初心者です。
映像やインタラクティブな表現に取り組むなかで、僕が選んできたのはTouchDesignerでした。そんな男が、今はUnityも改めて勉強しています。一人でやるには大変です。企画したことを、遊べるものにするまでには、まだ距離があります。
それでも、音楽、映像、デザインと、別々に続けてきたことが、ここで一つにつながる気がしています。
NACKでは、京都の文化や表現を受け取り、背景を調べ、次の人に届く形で残していく。Y4TRでは、僕の中に積み重なったものを、やってみたいという気持ちから作品にしていく。
二つは、それぞれの入口から、文化に出会う機会を増やしていきます。
NACKがこれから何を残すのか。そして、Y4TRでどんな旅ができるのか。完成品だけでなく、その途中も少しずつお見せしていくつもりです。
ひとまず、僕はまた勉強して、つくります。
よかったら、助手席を空けておくので。
乞うご期待です。
自分にも約束をします。

