文化を残す。その先に、遊べる入口を。——NACKとY4TRのこれから

NFTを出発点にしたNACKを、京都にゆかりのあるアートとカルチャーを残す編集メディアへ。創業者・田村祐大が、文化を記録し、遊べる体験へつなぐY4TRの構想を語ります。

48人のアーティストアーティストタイプ

あなたの中に、どの世界の見方がある?

12の質問で、美術・音楽・科学・哲学を横断する3人に出会う。約3分。

文化を残す。その先に、遊べる入口を。——NACKとY4TRのこれから

1.技術の名前から、残したいものの名前へ

久しぶりに、NACKのこれからについて書きます。

NACKは、NFTによるアートのコレクションを出発点にしていました。京都にゆかりのある作品をデジタル化し、所有や展示の新しい形をつくる。そこには今も可能性を感じています。

ただ、活動を続けるうちに、もう一度考えたくなりました。

僕は、NFTを使って何がしたかったのか。

技術の説明に力を入れるほど、その先にある目的が伝わりにくくなっていたのかもしれない。そこで、NACKという名前に込める意味を捉え直しました。

New Archive of Contemporary (Art and Culture) Kyoto。

京都にゆかりのあるアートやカルチャーを、次の世代へ残していく。そのために、調べ、記録し、編集し、人に届く形にする。これからのNACKは、その役割を担う編集メディアとして進んでいきます。

NFTも、3Dも、映像も、その目的に合うときに選ぶ手段です。まず残したいものがあり、出会ってほしい人がいる。そこから方法を考えたいと思っています。

2.アーカイブは、次の出会いをつくること

残したいものは、すでに評価が定まった作品だけではありません。

京都に現存する建築や寺社仏閣。そこで積み重なってきた営み。そして、今この街で活動しているアーティストや、これから知られていく新しい才能。その姿や声、何を考えてつくっているのかまで、メディアとして記録していきたい。

有名な建物でも、名前は知っているけれど、その面白さにはまだ触れていない人がいる。一方で、まだ知られていない表現にも、未来へ手渡したい価値があるはずです。

写真で形を残す。文章で背景を伝える。映像で声や動きを残す。3Dで、別の場所からも姿に触れられるようにする。それぞれに、得意な伝え方があります。

僕にとってアーカイブは、保存したら終わりではありません。

残したものが、誰かの「好き」の始まりになること。

記事を読んで実物を見に行く。映像をきっかけに作家を知る。空間で作品に出会い、暮らしに迎えたくなる。そんな次の行動まで生まれるものにしたい。

そのためには、知識のある人だけが入れる場所にしないことも大切です。面白そう、きれい、なんだこれ。その小さな反応から入れる入口を、いくつもつくっていきます。

3.大学時代に考えた名前を、もう一度

その入口を、バーチャルな世界にもつくれないか。

そこで始めたのが、Y4TR(ヤッター)というプロジェクトです。

この名前は、最近思いついたものではありません。大学生の頃、本名でアーティスト活動を始めるのが少し怖くて、別の名前を探していた時期がありました。

そのとき、サンスクリット語を調べるなかで出会い、僕が「探求者」という意味を重ねた言葉が、名前のきっかけになったと記憶しています。田村祐大、Yudai Tamura。その綴りや響きにも近いものを感じて、妙に親しみが湧いた。

結局、その後は本名名義でDJや音楽の活動をすることになりました。自分の楽曲が欧州のレコードショップのテクノチャートで1位になり、Nintendo SwitchやPlayStation 5向けのゲームに関わる楽曲のマスタリングや、主題歌の作曲も経験しました。

田中フミヤさんが、ZIPとのB2Bで僕の曲をスピンしてくれたこともあります。多くの人がいるフロアで、自分のつくった曲をかけてもらえた。あのとき本当に嬉しかったことを、今でも覚えています。

今、NACK notesで自分の音楽史を少しずつ振り返っています。第一弾を書きながら、昔の自分が何を面白がり、どこへ向かおうとしていたのかを、改めて考えています。

Y4TRは、その途中で再び手に取った名前です。

当時は本名で活動する怖さから考えた名前が、今は、やりたいことを自由にやるための名前になっている。それも、なんだか面白いなと思います。

4.DJのように、体験をつなぐ

では、なぜゲームなのか。

僕はDJなので、新しい曲も昔の曲も調べます。この場面には何が合うか。次にどんな音が来たら気持ちいいか。曲を選び、その場でつなぎ、フロアの反応を受け取る。

同じ曲でも、何のあとに流れるかで聴こえ方は変わります。選び方と順番によって、一つの時間ができていく。

それを、音楽以外でもやってみたいと思いました。

僕の世代には、通ってきたゲームがたくさんあります。ポケットモンスター、ロックマン、マリオ、ゴールデンアイ、スマッシュブラザーズ、電車でGO!、サクラ大戦。ゲームボーイ、スーパーファミコン、ニンテンドウ64、セガサターン、プレイステーション。

冒険する楽しさも、友達と遊ぶ時間も、運転する緊張感も、物語の登場人物に気持ちを重ねた経験もある。

それぞれのゲームが、僕の中に違う感覚を残してくれました。その記憶を、自分の音楽や映像、今まで見てきた世界とつなぎ直してみたい。

曲を選んで一夜をつくるように、体験を選んで一つの旅をつくる。

今考えているゲームは、そんな発想から始まっています。

5.僕の助手席に、座ってもらうように

ここで、企画の中身を少しだけ書いてみます。

Y4TRは、音楽、映像、短いゲーム体験をつないで巡る、オムニバス形式の作品として考えています。時代も場所も変わる。場面によって、遊び方も変わる。その旅の中で、人や音楽、知らなかった価値観に出会っていく。

たとえば、自然の中を歩く。昔の街で働く。乗り物を動かす。夜になったらクラブで音楽に触れる。もし平安や江戸にDJ機材があったら、そこにいる人はどんな反応をするのか。そんな、単純に僕が見てみたい場面もあります。

にぎやかな体験の間には、神社のような場所で立ち止まり、自分が何を受け取ったのかを振り返る時間を置きたい。出会った音楽や選んだものが、旅の終わりに一つのミックスへつながっていく。そんな構成を検討しています。

僕が通ってきたのは、音楽とゲームだけではありません。

現代アート、デザイン、ファッション、民藝、食器。浮世絵や油絵、美術館、カフェ、ナイトクラブ、鴨川。京都で暮らすなかで触れてきたものも、仕事で考えてきたビジネスや経営も、僕の見方をつくっています。

それらを全部、説明文にして渡す必要はないと思っています。歩いたときの景色や、そこで鳴っている音、何気なく手に取れるものに、僕の選び方が表れていればいい。

僕が運転席にいて、皆さんが助手席に座っているような感じです。

「この景色、ちょっと見てほしい」

「ここで、この曲をかけたい」

そうやって案内された先で、僕とは違うものを好きになってもらってもいい。僕の価値観を通って、その人自身の発見にたどり着ける体験にしたいと思っています。

6.つくったことがないから、また学ぶ

ずっと音楽をやっていたのに、クラブで最初に関わったのは映像でした。大学時代の友人とのつながりが、その入口でした。

音楽をやりたくて、映像にも触れた。必要になったことや面白そうなことをやっているうちに、できることが増えていった。僕の制作は、だいたいそんな進み方をしています。

ゲームづくりについては、まだ初心者です。

映像やインタラクティブな表現に取り組むなかで、僕が選んできたのはTouchDesignerでした。そんな男が、今はUnityも改めて勉強しています。一人でやるには大変です。企画したことを、遊べるものにするまでには、まだ距離があります。

それでも、音楽、映像、デザインと、別々に続けてきたことが、ここで一つにつながる気がしています。

NACKでは、京都の文化や表現を受け取り、背景を調べ、次の人に届く形で残していく。Y4TRでは、僕の中に積み重なったものを、やってみたいという気持ちから作品にしていく。

二つは、それぞれの入口から、文化に出会う機会を増やしていきます。

NACKがこれから何を残すのか。そして、Y4TRでどんな旅ができるのか。完成品だけでなく、その途中も少しずつお見せしていくつもりです。

ひとまず、僕はまた勉強して、つくります。

よかったら、助手席を空けておくので。

乞うご期待です。

自分にも約束をします。

EDITORIAL PROFILE

田村 祐大

NACK / 企画・編集

岡山県出身、京都在住。京都芸術大学芸術学部卒業。暗号資産・Web3領域のプロダクトデザインに約7年間携わった後、NACKを始動。

アートを入口に、文化・経済・社会・テクノロジーの関係を読み解くNACK Journal / Timesを企画・編集している。