NotesDesign

デザイナーは、宇宙まで考える。——でも、届ける相手は目の前にいる

商売を分かりやすく届けるために、どこまで考えるのか。靴磨きのおじさんと金星から、デザイナーの仕事をほどく。

J.M. WESTONのゴルフをモチーフにした靴磨きの手元、金星、店先のスケッチを組み合わせたNACK notesのサムネイル

1.デザインは、商売を分かりやすくお客さんに届けること

前の記事(外部サイトを新しいタブで開く)で、営業、広報、マーケター、広告屋、デザイナー、エンジニア。それぞれの視点が、全部僕の中にあるという話を書いた。

書いてみて、もう一つ考えたくなった。

では、デザイナーは、どこまで考える仕事なのだろう。

僕は、自分の仕事としてのデザインを、こう定義している。

デザインは、商売を分かりやすくお客さんに届けること。

グラフィックをつくる仕事として捉えていた頃から、この感覚は変わっていない。誰かが何かを売っている。その価値がうまく伝わっていない。だから、言葉や形や体験を整えて、必要としている人へ届ける。

簡単に言えば、それだけだ。

でも、その「それだけ」をちゃんとやろうとすると、考える範囲がとんでもなく広がる。

まず、商売って何なんだろう。

2.商売を考え始めると、世界の話になる

何を、誰に、いくらで売るのか。

そこには、つくる人がいて、材料があり、場所があり、時間がある。お金を払う人には、生活があり、都合があり、欲しい理由と買えない理由がある。

同じものでも、場所や時代が変われば、価値の受け取られ方が変わる。昨日まで必要だったものが、今日は必要とされないこともある。

なぜ、そうなるのか。

たどっていくと、経済の話になる。経営の話になる。歴史や文化、民族、宗教、戦争の話にもなる。何が手に入り、何が足りず、誰に選ぶ余裕があるのか。その背景には、目の前の会社だけでは決められないことがある。

さらに掘れば、素材、資源、自然、地球の環境。僕の興味は、宇宙にまで広がっていく。

だからといって、デザイナーは全分野の専門家でなければならない、という話ではない。

目の前の商売が、世界のどことつながっているのかを、必要なところまでたどれること。

知らないなら調べる。詳しい人に聞く。自分の思い込みでつないでいないか、確かめる。その姿勢が大事なのだと思う。

「この色が好きだから」で決めることもある。でも、その色が、ここで、この人に、どう見えるのかまで気になってしまう。そこから、僕の仕事は広がっていく。

3.靴磨きのおじさんと、金星をつなげてみる

たとえば、街角で靴を磨いているおじさんがいるとする。

その人の商売と、空に浮かぶ金星を、つなげて考えてみる。

突然、何を言っているんだと思うだろう。僕も、これをそのまま打ち合わせで話し始めたら、たぶん困らせると思う。

けれど、僕の中では、いくつかの道が見える。

最初に浮かぶのは、「光」だ。

金星は太陽の光を受けて輝いて見える。磨かれた靴も、光の受け方によって表情を変える。もちろん、惑星と革靴では仕組みも規模も違う。ここでは、光がものの見え方を変える、という一点を入口にしてみる。

そこから考える。

靴を磨くことで、お客さんは何を受け取っているのだろう。

汚れが落ちること。革を手入れしてもらうこと。それだけだろうか。大事な人に会う前に、少し自信を持てることかもしれない。忙しい日の途中で、自分を整える時間かもしれない。

そう考えると、店先の見せ方も変わってくる。

仕上がった靴の艶が分かる写真を置く。料金と所要時間を見やすくする。初めての人が頼みやすい一言を添える。仮に「大事な一日の前に、足元を整える」という言葉を考えたなら、それが実際のお客さんの気持ちに合うか、おじさんに聞いてみる。

最終的な看板に、金星は登場しないかもしれない。

でも、遠くにある光の話をしたことで、目の前の人が何を売っているのかを、もう一度見ることができた。

僕が面白いと思うのは、そういうことだ。

4.僕の中でつながっただけでは、まだ届いていない

ここで、おじさんが宇宙に興味を持っているかどうかは、聞いてみないと分からない。実は僕よりずっと詳しいかもしれない。

知らないだろうと決めつけた瞬間に、相手を見る仕事から離れてしまう。

そして、もう一つ。

僕の中でつながっていることと、相手に伝わっていることは、別だ。

これを忘れないようにしたい。

デザイナーは、関係がなさそうなものの間に関係を見つける。遠いものを並べてみる。共通点を探す。違いも確かめる。それによって、いつもの見方から少し外へ出る。

僕は、そういう訓練をずっとやっている気がする。

ただ、面白い連想ができたところで終わってしまったら、お客さんにとって何の役にも立たないことがある。

そのつながりによって、何が分かりやすくなるのか。何を選びやすくなるのか。何の不安が減るのか。そこまで戻ってくる必要がある。

宇宙まで考えた結果、必要なのは料金表の文字を少し大きくすることだった。そんなこともあると思う。それでいい。

考える範囲は広くていい。届ける形は、その人に必要な大きさでいい。

遠くまで行けることと、目の前の人のところへ戻ってこられること。その両方が、僕にとってのデザインだ。

5.「心配すな。でも安心すな。」

そんなふうに、いろいろな領域へ首を突っ込んでいると、自分でも遠くまで来たなと思うことがある。

デザイナーなのに、経営の話をする。音楽の話から、歴史や暮らしの話になる。周りから見たら、何をしている人なのか分かりにくいかもしれない。

でも、僕の中ではつながっている。

だから、大丈夫だと思っている。

その一方で、「自分には分かっているから大丈夫」と安心し切ってしまったら、そこで止まる。伝わっていないなら、まだ考えることがある。形になっていないなら、まだ手を動かす必要がある。

そこで思い出すのが、僕の好きなラッパー、SHINGO★西成さんの言葉だ。何度かステージもご一緒させていただいた。

僕の中に残っているのは、こんな言葉だ。

心配すな。でも安心すな。
焦らず、腐らず、諦めず。

他とは違う数の数え方。「1、2、3、しん、5、西成」。そこにある関西への愛も含めて、僕は何度も背中を押されてきた。

ここからは、僕の受け取り方だ。

心配しすぎて、自分の可能性を小さくしなくていい。でも、今の自分で十分だと、止まってしまわないこと。

自分のやっていることを信じる。相手に届くまで、考えることもやめない。

この二つは、同時に持っていていいのだと思う。

6.遠くまで考えて、そばにいる人へ届ける

僕には、「大丈夫だよ」と言ってくれる、厳しい人が必要だ。

何でも褒めてくれる人ということではない。僕が見ている可能性を信じてくれながら、「それで、本当に届いているのか」と問い続けてくれる人だ。

自分も、誰かにとってそういう人でありたいと思う。

デザインの仕事も、どこか似ている。

相手の商売には価値があると信じる。その人がまだうまく説明できないところまで、一緒に考える。そして、価値があると信じているからこそ、伝え方を曖昧なままにしない。

世界や宇宙のことまで考えるのは、遠くにいる自分を見せたいからではない。目の前にいる人と、その先にいるお客さんを、もう少しよく理解したいからだ。

デザインは、商売を分かりやすくお客さんに届けること。

端的に言えば、それだけ。

そのために、どこまで考えるのか。どこまで掘るのか。そして、どれだけ身近な言葉と形にして返せるのか。

僕は、その往復を続けたい。

心配すな。でも安心すな。

遠くまで考えて、ちゃんと、そばにいる人へ届けよう。

    NACK notes / PROFILE

    田村 祐大

    Designer / NACK Founder

    岡山県出身、京都在住。京都芸術大学芸術学部卒業。暗号資産・Web3領域のプロダクトデザインに約7年間携わった後、NACKを始動。

    NACK notesでは、映画、YouTube、音楽、車、日々の選択を、自分の経験とアート・デザインの視点から読み直す。専門家として結論を示すのではなく、一人の読み手として考えた過程を記録している。