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言葉は通じる。でも、価値観も商売も違う。

京都の会話から考える、文化・契約・これからの日本の商売

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京都の街とカフェでの対話、契約書を交わす手を組み合わせたモノクロの紙コラージュ。言葉は通じる。でも、価値観も商売も違う。

京都の会話から考える、文化・契約・これからの日本の商売

京都で「Hi」と言うところから

僕は英会話が好きだ。

京都に住んでいると、留学生と話す機会がある。向こうから話しかけてくれることもあるので、僕は普通に「Hi」と返す。そこから、音楽や建築、アート、デザイン、ビジネスの話になる。

英語が流暢なわけではない。難しいことを説明しようとすると、言葉が足りなくなる。それでも、知っている単語をつなぎ、聞き返し、相手の言いたいことを確かめていると、案外いろいろ話せる。好きなものがあると、伝えたいことも、聞きたいことも出てくる。

そうやってできた友達も、留学が終われば帰っていく。コペンハーゲン、ロンドン、ヘルシンキ、パリ、ベルリン、台湾、ソウル。友達のいる場所が増えるにつれて、世界地図に人の顔が浮かぶようになった。

彼らの多くも、英語を母語としているわけではない。違う母語を持つ僕たちが、会話のために英語を使っている。

同じ言葉で笑い、同じ音楽の話をしていても、育った家庭も、学校で教わったことも、当たり前だと思う振る舞いも違う。会話が続くことと、価値観が一致することは別なのだ。

その違いは面白い。ただ、仕事になると、面白いだけでは済まない。

「少し直す」に、どこまで入っているか

以前、デザイナーですが、営業の話をします。仕事は「約束」。(外部サイトを新しいタブで開く)で、仕事を「約束」という視点から考えた。何をするか。いつまでにするか。いくらで引き受けるか。その約束を結び、実行し、必要なら結び直すことで、仕事は進んでいく。

ところが、同じ言葉を使ったからといって、同じ約束をしたとは限らない。

たとえば、「このデザイン、少し直せますか」という依頼を考えてみる。文字を少し大きくするのか。色を変えるのか。それとも、ページ全体の構成を変えるのか。「少し」の中に思い浮かべている作業が違えば、必要な時間も金額も変わる。

依頼する側は相談のつもりで、受ける側は決定だと思っていることもある。黙っている人を、同意したと受け取っていいのか。持ち帰って検討する人を、断ったと受け取っていいのか。言葉の意味だけでなく、何をもって話が決まったと考えるかにも違いがある。

これは英語の問題に限らない。日本語で仕事をしていても起きる。

世界の契約や商売を知りたいと思うのは、どこかの国のやり方をそのまま正解にしたいからではない。僕たちが説明せずに済ませていることを、別の角度から見直したいからだ。

カルチャーは、国籍より細かい

「日本人は察する」「アメリカ人は主張する」。そういう説明は分かりやすい。でも、それだけで目の前の人が分かった気になると、肝心の話を聞き逃す。

文化は、国境の内側に一つずつ入っているものではない。同じ日本でも、家庭、学校、業界、会社によって、褒め方も、断り方も、仕事の決め方も違う。同じ会社にいてさえ、営業と制作では「もう決まった」の意味が違うことがある。

文化研究者のAdrian Hollidayは、「Small cultures」という考え方で、国や民族の大きな分類だけでなく、身近な集団や活動の中で生まれる文化に目を向けている。[1]国籍を知るだけでは足りない、という僕の実感にもつながる視点だ。

英語を使うことも、英語圏の価値観にそろうこととは違う。言語学者のJuliane Houseは、共通語としての英語を論じる中で、意思疎通のための言語と、自分が何者であるかに関わる言語を区別している。[2]僕たちは共通の道具を使いながら、それぞれの背景を持ったまま話している。

だから、相手を知るには、その人が何を大切にし、どんな立場で、何を引き受けようとしているのかを聞く必要がある。国や地域の知識は、その会話を始める手がかりになる。

日本の気配りを、誰かの持ち出しにしない

僕が日本の仕事の中で残したいのは、相手の使い方まで想像する態度だ。

頼まれたものを渡して終わりにせず、使うときに困らないか、次の人へ渡しやすいか、その先でどう見えるかまで考える。細かな配慮が積み重なって、品質や信用になる。この価値は大切にしたい。

ただ、その配慮には時間がかかる。作り直しには手間がかかる。急な対応をすれば、別の予定を動かす必要がある。

「いつも丁寧にやってくれるから」と、そこまで最初から無料の仕事に数えてしまうと、丁寧な人ほど苦しくなる。頼む側に悪気がなくても、費用を引き受けている人はいる。

相手を大切にする仕事を続けるには、働く人自身も大切にされる条件が要る。

だから、「ここまでは料金に含まれます」「この変更には追加の時間が必要です」「この日までに決めてもらえれば間に合います」と話せることが大事になる。

それを言った人が、気が利かない人になるのはおかしい。条件を確かめることも、相手に見通しを渡す気配りの一つだと思う。

信用があるなら説明を省ける場面はある。でも、付き合いが長いからこそ、相手の善意に頼り続けていないかを確かめたい。

アメリカの交渉から考える、値段のほかに話すこと

アメリカの商売というと、強気の交渉を思い浮かべる人もいるかもしれない。僕が交渉研究や実務教育から学びたいのは、相手が何を優先しているのかを知り、条件の組み合わせを考えることだ。

Jeanne BrettとTetsushi Okumuraが1998年に発表した日米の模擬交渉の研究では、日米の組み合わせは、同じ国の参加者同士の組み合わせより共同利益が低く、相手の優先順位の理解も乏しかったと報告されている。[3]会話ができていても、何を交換できるかをつかめていない場合がある。

たとえば、依頼する側が最も困っているのは、価格ではなく納期かもしれない。全部そろうのが一週間後なら間に合わないが、必要な部分だけ三日後に渡せるなら助かる。反対に、急いでいないので、仕様を絞って予算に収めたいこともある。

「安くしてください」「それはできません」だけでは、話は止まる。何を優先し、何なら変えられるのかを聞くと、別の提案ができる。

ハーバード大学のProgram on Negotiationも、契約を結ぶ前から関係をつくり、交渉した人が実行にも関わることの大切さを説いている。[4]サインをもらえば終わりではない。話し合った内容を、実際に仕事をする人へつなぐところまでが必要になる。

交渉は、付き合いを続けるためにもある。頼む側にも、引き受ける側にも、守りたい条件がある。それを口に出せる関係のほうが、後から黙って無理をする関係より、僕は信用できる。

ドイツとフィンランドから考える、意見を言える条件

条件を話せるかどうかは、本人の勇気だけでは決まらない。意見を言う場所や、決める手順も関わっている。

ドイツの連邦労働社会省は、職場の従業員代表である事業所委員会が、従業員の利益を代表し、提案を使用者へ伝える役割を持つと説明している。[5]意見を、たまたま話を聞いてくれる上司がいるかどうかだけに委ねず、扱う経路を制度にしている。

フィンランドの公的な就労案内では、比較的平らな階層、率直なコミュニケーション、約束を守ることが、職場文化の特徴として紹介されている。[6]役職が違っても意見を出すことと、引き受けた仕事に責任を持つことが、一緒に語られているのが興味深い。

僕はここから、日本の「事前に相談しておく」という仕事の進め方を考える。

根回しには、実行する人の事情を集めたり、問題を先に見つけたりする良さがある。一方で、誰に話せばいいかが分からず、会議に出ていない人の一言で結論が変わるなら、外から来た人は参加しにくい。

全員が黙っていたから全員納得している、とも限らない。反対を言えない人がいれば、あとで困ることが分かっていても、その情報が決定に入らない。

丁寧に相談するなら、誰の意見を聞き、誰が最終的に決め、いつ返事をするかまで分かるほうがいい。決まらないまま相手を待たせることにも、費用はかかっている。

韓国と香港の事例から考える、「決まった」の違い

進める順番そのものが違うこともある。

JETROが紹介した大川原化工機の事例では、同社の海外営業担当者が、日本では受注前に仕様を固める一方、自分が担当する韓国などでは、受注を決めてから仕様を詰める場合があると話している。[7]同社は、相手が求める仕様を見通し、社内の技術部門と協力して対応しているという。

この話で僕が気になったのは、どちらが速いかより、何が決まれば仕事を進めてよいと考えるかの違いだ。

仕様を詰めてから発注する側には、手戻りを減らせる安心がある。先に発注して進める側には、機会を逃さず着手したい事情があるだろう。そこで「まだ決まっていない」「もう始まっている」が食い違うと、営業と制作の間でも問題になる。

未確定のまま進めるなら、何が未確定なのか、いつ決めるのか、変更で増える費用を誰が引き受けるのかを共有しておきたい。「後で決める」こと自体も、取り決めの対象になる。

香港の技術取引についてのJETROの解説は、さらに、知的財産をどの範囲で使えるか、独占的に使えるか、どの地域で使えるか、期間や支払いをどうするかといった交渉事項を挙げている。[8]

「一緒にやりましょう」という前向きな言葉からも、決めることはたくさんある。試作だけなのか、本番で使うのか。今回の企画だけなのか、別の事業にも使うのか。同じ「使っていい」でも、その範囲が違えば、仕事の価値も対価も変わる。

国が違う相手だから細かく確認する、というだけではない。日本人同士のデザインの仕事にも、そのままつながる話だ。

日本の信用を、確かめられる約束にする

僕は、日本の商売の良さを捨てたいわけではない。相手を気にかけること、品質に責任を持つこと、長く付き合おうとすること。その良さを、無理なく続けられる形にしたい。

たとえば、デザインの依頼なら、最初に完成させたいものと、その使い道を聞く。その上で、制作する範囲、料金、納期、支払い、使える範囲を決める。確認に必要な資料を誰が用意し、誰が最終判断をするかも確かめる。

修正についても、「二回まで」と回数だけ決めれば十分とは限らない。文字の調整と、決定した方向を変えることは違う。どんな変更を料金に含め、どこから再見積もりにするかを話しておく。

進め方を説明するなら、たとえばこういう言い方ができる。

「今回の料金には、合意した構成での制作と、文字や色などの調整を二回まで含みます。構成や方向性を変える場合は、追加の費用と日程を確認してから進めます。確認内容は窓口の方にまとめていただき、最終承認をお願いする日も先に決めておきたいです」

これは会話の一例だが、何を決めたいのかは伝わる。発注する側も、予算の中で何を頼めるかが分かる。制作する側も、どこまで責任を持つかが分かる。

見積書や契約書に書いた内容を、日々のやり取りでも確かめる。変更があれば、その変更と費用、納期への影響を記録し、双方が確認してから進む。何でも長い書類にする必要はなくても、後から同じ内容へ戻れるようにはしておきたい。

もちろん、一方が断れない立場なら、書いてあるだけで対等にはならない。だから、説明は相手が判断できる言葉で行い、持ち帰る時間や、別の条件を提案する余地も必要になる。

以前、自分の判断が、誰かの期待になる。——僕が考えるブランディング(外部サイトを新しいタブで開く)で考えた信用も、仕事の進め方と切り離せないと思う。最初に何を約束し、途中でどう話し、困ったときにどう対応するか。そうした経験が、「次もこの人に頼みたい」につながっていく。

気配りを、説明できる条件にする。信用を、互いに確かめられる約束にする。 その積み重ねなら、日本の仕事の良さを保ちながら、違う背景を持つ人とも仕事を続けやすくなるはずだ。

違うままで、一緒に仕事をする

京都で英語を話していると、知らないことを聞くのは楽しい。分からない言葉を聞き返すことにも、あまりためらわない。それなのに仕事では、分かっていないと思われたくなくて、聞かずに進めてしまうことがある。

むしろ、仕事だからこそ聞いたほうがいい。「それは、どういう意味ですか」「何を一番大切にしていますか」「ここは、こう考えてよいですか」。その確認から、できることと、できないことが見えてくる。

言葉は通じる。でも、価値観も商売も違う。

相手を理解しようとすることは大事だ。寄り添うことも大事だ。でも、理解することと、自分の価値観を相手に合わせることは違う。

違うものを大切にしていても、一緒に取り組める仕事はある。そのための条件を、互いに納得できるところまで話せばいい。条件が合わなければ、引き受けないという判断もできる。

ただし、違いを尊重することと、どんな振る舞いでも受け入れることも違う。感謝も謝罪もなく、自分の利益だけを求め、引き受けた責任から逃げる相手とは、僕は仕事をしない。文化の違いという言葉で、相手を大切にしない態度まで引き受ける必要はない。

僕がつくりたいのは、誰か一人の我慢で成り立つ関係ではない。違う人同士が、それぞれの大切なものを持ったまま、仕事を続けられる関係だ。

何をつくるかを考えるとき、そのために交わす言葉や、判断する手順、一緒に働く人の条件まで考えたい。出来上がるものの良さは、それをつくる過程ともつながっている。

僕はデザイナーだからだ。


参考文献・資料

[1]Adrian Holliday(1999)“Small cultures”(外部サイトを新しいタブで開く), Applied Linguistics, 20(2), 237–264.

[2]Juliane House(2003)“English as a lingua franca: A threat to multilingualism?”(外部サイトを新しいタブで開く), Journal of Sociolinguistics, 7(4), 556–578.

[3]Jeanne M. Brett・Tetsushi Okumura(1998)“Inter- and Intracultural Negotiation: U.S. and Japanese Negotiators”(外部サイトを新しいタブで開く), Academy of Management Journal, 41(5), 495–510.

[4]Program on Negotiation, Harvard Law School, “The Deal is Done — Now What?”(外部サイトを新しいタブで開く).

[5]ドイツ連邦労働社会省(BMAS)“Labour law”(外部サイトを新しいタブで開く)(Co-determinationの節)。

[6]Work in Finland, “Finnish work culture”(外部サイトを新しいタブで開く).

[7]JETRO(2025年12月18日)「顧客のゴールを聴く力で成約へ(神奈川・大川原化工機)」(外部サイトを新しいタブで開く)。

[8]JETRO(2025年9月24日)「『香港知財取引調査(技術取引・共同研究編)』を読み解く」(外部サイトを新しいタブで開く)。

    NACK notes / PROFILE

    田村 祐大

    Designer / NACK Founder

    運営者
    田村 祐大
    学歴
    京都芸術大学芸術学部卒業
    活動
    NACKの運営、Journal / Timesの企画・編集

    岡山県出身、京都在住。暗号資産・Web3領域のプロダクトデザインに約7年間携わった後、NACKを始動。

    NACK notesでは、映画、YouTube、音楽、車、日々の選択を、自分の経験とアート・デザインの視点から読み直す。専門家として結論を示すのではなく、一人の読み手として考えた過程を記録している。