伝わらなかった。だからといって、真心まで間違いだったのか。
相手の姿勢までは引き受けられない。それでも、自分の誠実さは手放さない。

NACK notes #024|いまを読む
1|ちゃんと伝えれば、届くと思っていた
僕は、ちゃんと伝えたいと思っている。
仕事の話でも、好きなものの話でも、人との関係でも。なぜそう思ったのか。何を大切にしているのか。どうして、その言葉を選んだのか。結論だけを投げて終わりにせず、その奥にある気持ちまで伝えたい。
以前、ディグについての記事(外部サイトを新しいタブで開く)で、好きな相手ほど、もっと知りたくなると書いた。もっと話したい。もっと奥まで行きたい。一緒に、もう少し先まで考えたい。
その気持ちは、僕が何かを伝えるときにもある。
だから、言葉を選ぶ。説明の順番を変える。相手にとってわかりやすい例を探す。伝わらなければ、別の言い方を考える。
それでも、届かないことがある。
一生懸命伝えようとしているのに、そもそも話を受け取ってもらえない。そのとき、僕は迷う。まだ自分の説明が足りないのか。それとも、ここから先は、僕が頑張っても変えられないことなのか。
2|シャッターを閉められると、言葉は届かない
相手がわからないと言っているなら、説明を変える余地がある。違うと思っているなら、その理由を聞いて、一緒に考えられるかもしれない。
でも、理解しようとすること自体をやめられてしまうと、話は違ってくる。
何を言っても、聞く前に結論が決まっている。言葉の中身を確かめる前に、こちらとの会話が閉じられている。そんなふうに感じると、どこへ向かって話せばいいのかわからなくなる。
シャッターの閉まった店先で、ずっと呼びかけているような気持ちだ。
ただ、意見が合わないことと、理解する気がないことは、分けて考えたい。僕の話を理解したうえで、違う判断をする人もいる。今は話す余裕がない場合もある。
同意してくれないからといって、「わかろうとしていない」と決めつけたら、僕のほうも相手の話を閉じてしまう。
僕が求めているのは、必ず賛成してもらうことではない。何を伝えようとしているのか、一度は向き合ってもらうことなのだと思う。
3|真心を、相手が受け取れる形にする
僕はデザイナーだから、伝える気持ちだけで、伝わる形が完成するわけではないことも知っている。
説明をたくさん書いても、読む順番がわからなければ届きにくい。自分には当たり前の言葉でも、相手には前提がないかもしれない。こちらが大切だと思っている話と、相手が今知りたいことが、ずれていることもある。
「真心を込めた」は、そこで工夫をやめていい理由にはならない。
相手は何に困っているのか。どこで引っかかったのか。何を不安に思っているのか。そこを聞いて、自分の言葉も組み直す。仕事なら、目的や判断の理由を、相手が確かめられる形にする。
ときには、話すより先に聞くことが必要なのだと思う。
僕の中にどれだけ思いがあっても、それがそのまま相手に見えるわけではない。だからこそ、見えるようにする努力は、自分の側に残しておきたい。
4|理解しようとする姿勢までは、代わりに引き受けられない
それでも、こちらの努力だけではどうにもならないことはある。
どれだけ伝えようと努めても、相手が理解しようとすることを放棄するなら、そこはもう仕方がない。
言葉を選び直すことはできる。説明する場所や時間を変えることもできる。自分に間違いがあれば、認めて直すこともできる。
でも、相手が聞こうとするかどうかまで、僕が代わりに決めることはできない。
伝える努力はできても、理解しようとする姿勢まで、代わりに引き受けることはできない。
「これだけ伝えたのに」と思うのも本音だ。時間も気持ちも使った分、悔しくなる。けれど、その大きさが、そのまま相手の応える義務になるわけでもない。
だから、相手を変えようと伝え続けることを、いったんやめる判断もあると思う。距離を置く。別の伝達方法を選ぶ。仕事なら、話し合いの場や、間に入る人を変える。
届かなかったことを振り返るのは大切だ。でも、届かなかった責任を全部、自分の中へ持ち帰る必要はない。
5|それでも、真心を込めることは怠らない
ただ、この話を「どうせ伝わらないから、もういい」で終わらせたくはない。
相手に理解する気がない、と早く決めてしまえば、自分は楽かもしれない。でも、その言葉を使って、自分が伝える努力を省くようにはなりたくない。
僕自身も、人の話を聞く側になる。わかりにくいからといって、すぐに閉じていないか。自分と違う意見だからといって、理由を聞く前に片づけていないか。相手に求める姿勢は、自分も持っていたい。
真心は、必ず届くという保証ではない。それでも、人に向き合うときに、自分が選びたい態度ではある。
届くかどうかは、僕一人では決められない。
けれど、どう向き合うかは、僕が決められる。
ただし、真心を込めて、本当に伝えようとすること。それだけは、僕自身、絶対に怠らない。
